2011年12月4日日曜日

役員の対第三者責任についてのメモランダム

株式会社において、役員等(取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人のこと会社法423条1項括弧書を参照)は、当該会社の具体的な事業を執行する。

会社は、このような役員等を経営の専門家として経営に関する事項について役員等に委任しており(330条)、損害が生じたからといっても、任務懈怠(善管注意義務違反、忠実義務違反)がない限り結果責任を負わせることはない。

同様に、会社の事業によって、第三者に損害が生じた場合にも、役員等は第三者に対して賠償責任を負う場合がある(429条1項以下「本条」)。
本条のポイントは、(1)本条の責任の法的性質、(2)損害の範囲として間接損害の場合も本条の範疇に含まれるか、(3)「第三者」に株主が含まれるかという点にある。
そして、これらを考察するとき忘れてはならないのが、当該事例が直接損害の事例か間接損害の事例かという点である。
以上、論点として3点、視点として1点を念頭に置くことが基本である。

(1)まず、論点となるのは本条の責任の法的性質であるが、判例(最大判昭44.11.26百選71事件)は、これを不法行為責任とは別の特別の法定責任であるとしている(法定責任説)。
そして、本条の責任が不法行為責任とは別の根拠による責任であることの帰結として、①本条が要求する悪意重過失の対象は任務懈怠に対してあれば足り(本質的に不法行為責任であるとすると、故意過失の対象は損害となる点が異なる)、②役員等に不法行為が成立する場合は、当該第三者は役員等に対し別途不法行為(民法709条等)に基づく損害賠償を請求しうるとした。

昭和44年最大判の事案は簡単にするとこうである。
A社の代表取締役Yは、Xに対してA社社長Y名義で約束手形を振り出し、当該約束手形が不渡りとなって回収できなくなったのでYの対第三者責任を追及した。

事案は、間接損害事例(取締役の悪意重過失による任務懈怠によって会社が損害を被り、その結果第三者に損害が生じる事案のこと)ではなく、直接損害事例(取締役の悪意重過失により、会社に損害がなく、直接第三者が損害が生じる事案のこと)であって、原告Xは予備的に民法715条の不法行為責任をも主張した事案であった(視点)。

(2)そして、同判決は「第三者保護の立場から」、「取締役の任務懈怠と第三者の損害との間に相当の因果関係があるかぎり、会社がこれによって損害を被った結果、ひいては第三者に損害が生じた場合であると、直接第三者が損害を被った場合であるとを問うことなく」、取締役には賠償義務が生じるとした。
なぜ、直接損害事例か間接損害事例かが問題になるかといえば、直接損害については一般不法行為法の範疇ではないかと考えられ、間接損害については本条の責任を認めなくとも債権者代位(民法423条)や株主代表訴訟(会社法847条)によって会社の有する債権を行使すれば足りるのではないかと思われるからである。
しかし、「第三者保護」を強調するならば、損害を被った第三者が不法行為を理由として当該役員等には損害の発生について故意過失があって損害を生じたことを立証させるのは、役員等の事業行為についての高度な専門性に鑑み(「こうすべきなのにしなかった」ことを経営の素人が主張するの必要があるので)困難であること、また債権者代位の前提としての会社に対する任務懈怠の存否についての立証についても迂遠であることから避けるべきであるといえる。
よって、判例は直接間接の両損害を包含することにしたと思える。

(3)さらに、実際に試験で問われる場合、会社、役員等、株主以外の者に損害が生じた場合でなく、株主に損害が生じた場合が問われるケースが経験上は多い。
株主は、会社の実質的な所有者であり、会社の事業に濃厚な利害関係を有するだけではなく間接有限責任をも負っていることから、このような株主も「第三者」として本条により保護されるか問題となる。
この点、問題となるケースが直接損害か間接損害かによって解決が異なるとするのが通説である。
なぜなら、株主には会社に対して役員等に会社に損害を賠償せよと要求する手立てが用意されている(847条1項)からである。
つまり、間接損害事例は会社に損害が生じてこれによって第三者に損害が生じているものであるから、当該第三者が株主であるとすると代表訴訟がまさにワークする場面であるということになるのである。
通説は、このような場合会社は役員等に対して損害賠償を請求でき、他方第三者として株主が本条によって直接自己に損害の補填を請求できるとすると役員等は、同一の任務懈怠に基づいて二重に賠償責任を負うことになり妥当ではない。そうであれば、株主が本条の責任を追及することで会社の有する賠償請求権を奪うことになってしまう。
このような不都合性を解消するため、株主は間接損害を被った場合、本条によらず847条によって会社に訴訟提起を請求すべきであると考えるのである。

他方、直接損害事例は損害が会社に生じていないのであるから、当該損害についての請求権者は第三者しかありえず利害関係を有するといっても事業を執行しない株主に損害を甘受させる理由はないから、株主も「第三者」として本条の責任を追及することができると考える。

ただし、会社も株主も損害を被った間接損害の事例でも株主が本条の責任を追求すべき場合はあると考える説もある(江頭)。
たとえば、取締役が支配株主を兼ねているような場合には代表訴訟が十全に機能しない可能性があるからである。

以上を前提に、問題となりそうなのが、間接損害の事例として取り上げられる取締役による有利発行(著しく有利な価額で株を発行した場合)の事例である。
例えば、純資産2億の会社が100株を発行していた場合において、1株20万円で100株の募集株式を発行した場合、新株発行前の1株の価値は200万であるのに対し、新株発行後は110万円になってしまう。
この場合、会社には本来1株当たり200万円の払い込みがあるべきであるのにも拘らず、実際には1株20万円しか払い込まれていないのであるから会社に損害があり、さらに既存株主は1株あたり90万円もの株価の下落を被るのであるから損害を被っているといえる。
そこで、株主は本条の責任を役員等に追及したいと考えるが、このような損害は間接損害なので847条による処理をすべきになるのである。
しかし、実務ではこのような場合にも株主が本条の責任を追及することを認めている。
なぜなら、このような場合、会社が損害を被っていないいわば直接損害事例だとも考えられるからである。
つまり、新株発行に際し払い込まれる金額は、株価の多寡に拘わらず資金調達として会社に損害を及ぼすものではないと考えるのである。
そうだとすれば、株主は「第三者」として本条の責任を役員等に追及することができるのである。

このように、間接損害とみるか直接損害と見るかによって法的構成は異なる(らしい)。
しかし、明らかに会社に損害が生じていたり、逆に会社には何の損害も生じていない場合は格別、そうでないならば自己の帰結に向かって直接損害か間接損害かを株主が代表訴訟をすることが期待できるのか代表訴訟がきちんと機能する場面かを勘案することで認定することも許されるのではないかと考える。

参考文献:江頭憲治郎「株式会社法」、伊藤靖史ほか「リーガルクエスト会社法」、判例百選P146洲崎解説

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